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俺は歩道に立っていた。
なんでここにいるのか……理由はさっぱり分からない。自転車がどこにも見当たらないということは、通学の途中というわけではないようだが……
「…あ、母さん。」
気が付くと母さんが十字の道路の真ん中に立っているのを見つけた。何やってんだ母さん?そんなところにいたら危ないって。
俺は母さんを歩道の方に引き込もうと手を伸ばしたが、次の瞬間グシャっという音と共に視界から母さんが消えた。
「……え?」
赤い液体が跳ねて俺の顔にかかる。母さんは横から突っ込んで来た車にはねられられると、まるで人形のように大きく空を舞い……地面に叩きつけられて、そのままピクリとも動かなくなった。
「……か、母さん?母さん!!」
車は一瞬止まってから、また走り出す。俗にいう轢き逃げ…だが車のナンバーや特徴を見て覚えるなんて余裕が俺にあるはずもなかった。
「母さん!母さ……っ!!」
動かない母さんの側に急いで駆け寄ったが……もう手遅れだと分かってしまった。割れた頭の中から外へとはみ出してるそれが雄弁に物語っている。
「………………」
俺は身体を引き上げていた糸が切れた人形のように膝立ちになると、目の前にある母さんだった肉塊を見つめ……あまりの仕打ちにただ叫んだ。
「ぅ、うああ゛あああ゛あ゛あ゛あ゛あああああっ!!!」
端から見たらきっと精神崩壊でも起こしたように見えただろう。でも俺は壊れていなかった。母親が目の前で死んだにも関わらず。……多分心のどこかで思ってたからだと思う。死んでよかった…とか。
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