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秋姉がそう言ったのを聞いて、俺は脚から力が抜けて思わずペタンと座り込んでしまう。終わった……のか。
「いや~、大変だった。まさかあんな苦戦するなんて夢にも思わなかったよ~。」
「…………おい、秋姉。」
「ん?どしたの和樹?あれ?もしかして安心したら力が抜けちゃった?」
「あぁ、本当にこんな風になるなんて思っても……じゃなくて!!秋姉、さっきのはどういうことだ?」
「さっきの?」
「だから!必殺技だよ!!」
「あぁ~!必殺技ね!よかったでしょ?私のシャイニング○ィンガー。」
「違うよ!断・空・拳だろ!?断・空・拳出すコマンドじゃなかったのかよ!?」
「へ?あ、あぁ~。そういえばそうだったっけ?」
「………………もう嫌(泣)」
本気で泣きたくなったが、とりあえずこの後俺達は通路の入口で待ってた接客係の人に何があったのか散々質問責めに遭うことになった。勿論、秋姉の治療を優先してからだったが。
――こうして波乱万丈な温泉旅館の夜はふけて翌日。朝風呂みたいな感じで一度温泉に入ってから、俺達は帰路についた車の中で揺られていた。
「……和樹、お前一体昨日の夜に何があったんだ?リフレッシュするどころか逆に疲労困憊の疲れきった顔してるぞ?」
「…………何も聞かないでくれ。もうあんな目に遭うのは懲り懲りだ。」
親父の質問にはそう返しておいた。幽霊の作り出した亜空間で悪霊と秋姉が戦ってて、俺のコマンド入力で秋姉の必殺技が炸裂して助かった……と言って信じてくれる人がいるだろうか?いや、いない。俺なら間違いなく「厨二病乙(笑)」と言ってやってるだろうからな。
俺は両サイドから頭を肩に預けて寝ている三姉妹に目をやる。スヤスヤとよくもまぁ幸せそうに寝やがって。俺なんかあまりにも非現実的な体験をしたせいで昨日はあの後一睡も出来なかった。いや、マジだぞ?
おかげで眠くて仕方がない……だが寝たらまたあの時の体験をするはめになるかもしれないと思うと、とても眠れそうになかった。しばらく安眠は出来そうにないな。
俺は窓の外を見ながら大きく欠伸をしてそう思った。――こうして初の温泉旅館は、色んな意味で思い出に……というかトラウマになりかねないような体験で締め括られることとなった。ちなみに「家がやっぱ一番!」と思ったのは言うまでもない……か?
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