それはある日突然に

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そんなわけで母さんが死んでから一週間が経過した今日この頃。大分家事にも慣れてきた俺と、相変わらず何もしてない尚樹に衝撃的な話しが親父の口から飛び出すことになる。 「和樹!尚樹!再婚が決まったぞ!!」 「…………はぃ?」 俺は自分の耳を疑ったね。一週間前に妻が死んだというのに、もう新しい相手を見つけるなんて…いくらなんでも切り替え早すぎないか親父!? 「いやー、俺達とおんなじような境遇の人がいてな?いい具合に気もあったし、新たな人生歩もうぜ!って話になったわけだ。」 ……いいのかそれで?もう少し相手を見極める必要があると思うけど… 俺が不安そうな顔をしていたせいか、親父は笑いながらさらに続ける。 「大丈夫だ和樹!相手の人は俺より年下で美人だから心配すんな!」 「……別に年齢とか容姿を気にしてたわけじゃ…あ、いや、気にしてないって言ったら嘘になるけど……ゴホンッ、ところでその人いくつなの?」 「よくぞ聞いてくれた!年齢はな……」 「39です。」 親父が話すより先に聞いたことのない清んだ声が、俺の質問に答えてくれた。そしてその声の主は親父の背後から、ピョコっと小さな身体を俺達の前に現す。 「ど~も~。私が噂の新しいお母さんで、時雨 春恵(しぐれ はるえ)と言います。えっと…和樹君に尚樹君よね?マイペースなお母さんになるかもしれないけど、二人ともよろしくね。」 「………………」 「え、えっと……あの?」 「…………ジーッ」 「き、清治さん~!やっぱり無理ですよ~!いきなり新しいお母さんだなんて言われたって納得出来ませんって~!」 春恵さんは、ごもっともなことを叫びながら親父の背後へと逃げて行ってしまった。まだこちらは何も言ってないんだが……どうやら駄目だと誤解してしまったらしい。早く解いてあげないと不味いか。 「す、すいません反応しなくて!全然無理じゃないですし、春恵さんみたいな綺麗な人が母になってもらえるなら、むしろこちらからお願いします!」 「……お願いします。」 ワンテンポ遅れて俺達が返事を返すと、春恵さんはおずおずとした様子で親父の脇の横から顔だけを覗かせる。 「ほ、本当ですか?易々と受け入れてもらえるとは思っていませんし…無理しなくていいんですよ?」 潤んだ瞳と小動物のような雰囲気、そして極めつけに震えながら必死に出している声でそんなこと言われて断るなんて言える輩はおるまい。
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