海月

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   熱い息が満ちている。家具の(ほとん)ど無い和室に、ようよう整い始めたとみえる荒い息だけが響いていた。  男は名残惜しげに身を起すと、脱ぎ散らした寝間着を手に取り袖を通し、軽く腰紐を結ぶ。障子(しょうじ)を開け窓を細く開けると、心地()い風が吹き寄せて来る。 (いい風っすねえ……)  男は微笑する。風は微かに花の香りを(はら)んでいた。 「っくしゅっ!」 「大丈夫っすか?」  小さなくしゃみに窓を閉め、布団に伸びたままの相手の腹に、もう一枚の寝間着を掛けてやる。  まだ上気したままの肌はしっとりと湿り、撫でると(てのひら)に吸い付いて来て、(いく)らでも触れていたくなる。 「あんた、しつこいぜ。俺にも体力の限界ってもんがあんだからさ」 「若いくせに何言ってんすか。なんならトレーニング強化しましょうか」 「勘弁してくれ……」  少年からようやく青年へと脱皮したばかりの身体は、恐ろしい程に伸び盛りだ。  今に抱えられるのは己の方かも知れない。などと考え、複雑な心境で(あご)(さす)る男の脇に、腰を擦りながら起き上がった青年が座った。  肩に羽織っただけの寝間着を直してやると、青年が気怠(けだる)げに手を伸ばし、男の顎に触れた。
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