海月

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「あんた、(ひげ)が無い方が格好いいんじゃないか?」 「おや、今のアタシはお嫌いっすか?」  無精髭を(つま)む青年の手を握り、息が掛る程に顔を近付けると、青年は僅かに目元を朱に染める。  初々(ういうい)しい反応に、またぞろ男の助平(すけべ)心が頭をもたげた。  だがそこは年の功、涼しい顔を崩さず、問い詰めるように目を見つめる。 「嫌いじゃねえよ。けど、ちくちくあたって痛いんだよ」 「嘘吐(うそつ)きっすねえ。それがいいって言ってたじゃありませんか」 「いつ!? 誰が!?」 「昨夜、君が」  拾い上げた扇で寝乱れた布団を示すと、青年は完熟した赤茄子(とまと)のように真っ赤になり、蜜柑(みかん)色の頭を抱えた。  何やら葛藤している様子の青年を眺め、にやつく男の枯れ草色の髪が日に透け、畳には影が落ちる。  もう大分日が高いようだが、男にも青年にも床を離れる気配は無かった。 (いずれアタシを置いて逝くんだ、それまでは楽しみましょうよ)  頭を優しく撫でると、青年はがばっと顔を上げ、何かを吹っ切るように窓硝子(がらす)(ひたい)をぶつけた。  ごつんっと鈍い音が響く。
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