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不穏な気配を本能が感じ取っている。言い知れぬ不安を胸に抱いた二人は、しかし今は何も知らぬ振りをして戯れ、愛を交わす。
いつ果てるとも知れぬ命のぬくもりを、互いに確かめその身に刻む為に。
(本当に愛してますよ。あなたはいつか、後悔するんでしょうかね)
その時は、笑って振られる覚悟があった。
若気の至りだったと言われるのも、心を残さず別れるのも、もう慣れてしまった。
数百年も生きていると、そんな事ばかりが上手くなる。
だが、今はただ、眩しい程純粋な青年と馴れ合っていたい。やがてその背を見送る時が、男にはやって来るのだろうから……人間の生命はあまりにも儚く、一生は短い。
(もっとも、案外アタシの方が早く消えるかもしれませんが)
しかしそれは、訪れるかも知れない、不確定の未来の欠片に過ぎないのだ。
男は縋り付く青年の身体を抱き締め、ひたむきに愛の言葉を囁き続けた。
――刀が啼いている。
反乱による戦火は一応の終結を見せたが、異界の混乱は長く尾を引くだろう。誰もが疑心暗鬼に陥っていた。
真昼の月に見つめられ、二人の身の内に潜む刀が、静かに静かに啼いている。
不幸を呼ぶと言う黒猫は、古巣からいったいどんな知らせを持ち帰るのだろうか……それはまた、別の物語。
了。
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