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何故、道は分かたれたのだろう。同じ星を見ていた筈が、いつの間に別の物を見るようになったのだろう。それとも……
(隊長、全ては偽りだったのですか? 俺は貴方の役に立ちたかった)
何事にも穏やかで、しかし厳しい姿勢に憧れ、心から尊敬していた。
だから、盲た目で何を見、何を感じているのかを知りたかった。
それは己の分を弁えぬ、傲慢な思いだったのだろうか。
(何故……いったい何処で、俺達は道を違えたのですか。教えて下さい、隊長っ!)
「――おいっ!!」
ぴしゃりと頬をはたかれ、青年はようやく我に返った。
青年を見下ろす男は、苦虫を噛み潰したような、なんとも言えない顔をしている。
「最中に余計な事、考えてんじゃねぇよ。特に他の男の事なんか」
不機嫌そうに睨む男の腕を慌てて掴み、青年は気まずげに詫びる。
「ご、ごめん。ちょっと気が逸れて……――ひあっ。えっ、も、もういいの?」
去って行く熱を惜しみ、身体の芯が僅かに痙攣する。
呆気に取られ男を見つめると、ため息が返って来た。
「萎えた。お前もあんまり、その気じゃ無さそうだし」
「ごめん」
「謝る事じゃねぇさ。あんな事があってから、まだ日が経ってないからな」
男は巻煙草を咥えながら、無愛想な顔にいつもより優しい微笑を浮かべ、青年の黒髪をくしゃくしゃと撫でる。
その手がとても温かくて、青年は泣きたくなった。
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