沈む月

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   何故(なぜ)、道は分かたれたのだろう。同じ星を見ていた(はず)が、いつの間に別の物を見るようになったのだろう。それとも…… (隊長、全ては偽りだったのですか? 俺は貴方(あなた)の役に立ちたかった)  何事にも穏やかで、しかし厳しい姿勢に憧れ、心から尊敬していた。  だから、(めしい)た目で何を見、何を感じているのかを知りたかった。  それは己の分を(わきま)えぬ、傲慢(ごうまん)な思いだったのだろうか。 (何故……いったい何処(どこ)で、俺達は道を(たが)えたのですか。教えて下さい、隊長っ!) 「――おいっ!!」  ぴしゃりと頬をはたかれ、青年はようやく我に返った。  青年を見下ろす男は、苦虫を噛み潰したような、なんとも言えない顔をしている。 「最中に余計な事、考えてんじゃねぇよ。特に他の男の事なんか」  不機嫌そうに睨む男の腕を慌てて掴み、青年は気まずげに()びる。 「ご、ごめん。ちょっと気が逸れて……――ひあっ。えっ、も、もういいの?」  去って行く熱を惜しみ、身体の芯が僅かに痙攣(けいれん)する。  呆気に取られ男を見つめると、ため息が返って来た。 「萎えた。お前もあんまり、その気じゃ無さそうだし」 「ごめん」 「謝る事じゃねぇさ。あんな事があってから、まだ日が経ってないからな」  男は巻煙草(まきたばこ)(くわ)えながら、無愛想な顔にいつもより優しい微笑を浮かべ、青年の黒髪をくしゃくしゃと撫でる。  その手がとても温かくて、青年は泣きたくなった。
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