月夜の戯言

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 不意に一人の男が、(うずくま)る少年の足首を荒れた手で掴み、力任せに押し開いた。  寸足らずでぼろぼろの着物の裾はいとも容易(たやす)く開き、下帯さえ着けていない素肌が夜気に(さら)される。  更なる危機を悟った少年は、ありったけの力を集め必死にもがいた。 「やめぇっ! ボクに、触れんなああっっ!!」 「っあ痛。っ……抑えろ!」 「おうっ」  発育の悪い小柄な少年の身体に、わらわらと男達が群がり抵抗を封じる。まるで獲物を仕留める飢えた犬だ。  (あご)に誰かの(ひじ)が当り、衝撃で頬の内側が切れ、()びた鉄の味が口中に広がる。  男達の身体越しに見上げた空に、ぽかりと(うつ)ろな満月が浮いていた。  今夜に限って月明りは白々と辺りを照らし、くっきりと影が落ちる程に明るい。闇に身を隠す事も(かな)わなかった。 (嫌やぁ、こんなん……ボクはまだ、死なれへんのんや。そんな風に照らさんといてぇ)  辺りに救いの手など無い事を知っている少年は、それでも最後の力を振り絞り叫んだ。僅かな希望に(すが)って…… 「やめ、やめええぇっっ!! 放せっ、放っ――」 「叫んでも誰も来やしねぇよ。ちっと静かにしてろ」  汚れきった手拭(てぬぐ)いを口に押し込まれ、救いを求める叫びは喉の奥で(うめ)きに変わった。  生温く臭い息が、げっそりとこけた少年の頬にかかり、ぽきりと折れそうな程に細い脚が強引に押し開かれ、その瞬間、 「っ…っっ……――!!」  世界は(きし)み、少年は己の肉の裂ける音を聞いた。  
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