月夜の戯言

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  「――ちょうっ。……起きてください、隊長っ」 「っ……!!」  はっと目を覚ますと、心配顔の青年が覗き込んでいた。  額に手を当てると、汗で髪が張り付き、素肌にあたる湿った布団(ふとん)の感触が気持ち悪い。  のそりと身を起すと、乾いた寝間着が肩に掛けられた。 「うなされていたので起しました……あの、大丈夫ですか?」 「おおきに、大丈夫や。やな夢見てもうただけやから」  細い目を更に細めて微笑みかければ、青年は安心したように表情を緩める。 (ほんまに嫌な夢や。けど、うん百年も前の事なんか、ボクもよう覚えとるなぁ)  散々なぶられ、やがて手足の感覚も失せ、視界は(かす)み、もう駄目なのだと思った。  そうして初めて他人を心の底から憎み、殺意を抱いたのだ。  風の無い月の明るい晩。血臭はいつまでもいつまでも、身体に(まと)わり付いていた。  その臭気までもが、まざまざと鼻に(よみがえ)る。忘れたつもりでも、身体は事細かに覚えているようだ。 (ボクの身体もええ加減しつこいなぁ。忘れてもぉても構わんのに)  肉を裂かれる感触も、肉を裂く感触も、今ではすっかり馴染(なじ)み深い。けれどもそこに、特別な感慨(かんがい)などは無かった。
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