月夜の戯言

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 行灯(あんどん)(ほの)かな明りの中、控え目に寄り添う青年の柔らかな髪が揺れる。 (ああ……あん時のお月さんとおんなじ色や)  その髪を撫で、額に口付けてやると青年は幸せそうに頬を染め、囁いた。 「僕はいつでも、隊長のお(そば)に居ますから」 「ほんま? それは嬉しいなぁ」  はだけた着物の裾に手を差し入れ、引き締まった白い脚を(さす)る。  従順な青年の息が甘く引きつれ、かつての少年は(ひそ)かに目を(すが)めた。 (けど、堪忍(かんにん)なぁ。ボクはあの人に付いて行かなあかんのんや)  あの晩、力を使い果し(しかばね)を前に(ほう)けていた自分を見付け、救い上げた男。闇を抱いたような男の薄ら寒い微笑みを思い描き、自らも同じ笑みを浮かべる。 (お前は連れて行かん。お前はこっちの世界で生き)  それがどういう意味を持つのか、かつての少年は知らない。(いな)、知らない振りをしている。  薄青い刃のような髪を、中天に掛った満月の光が、障子(しょうじ)越しに照らし(きら)めく。  金と銀の髪をした二人は月が沈むまで、熱く抱き合っているのだろう。しかしそれは月だけが知る、泡沫(うたかた)の夢。
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