月夜の戯言

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(あっちのお月さんは、何色やろなぁ……)  切ない鳴き声を上げる青年の髪を(いら)いながら、新たな世界の月を思う。叶うならば、これとは違う色がいい。この色を忘れられるように。 (お前はボクの事、忘れたらあかん。ずうーっとずうーっと、覚えとき)  腹の内は毛程も(さら)さず微笑みだけを見せ、尚一層強く抱き締める。  (すが)る手に背中を掻かれ、代わりに首筋に歯を立て噛み付く。甘い悲鳴が沈香(じんこう)の薫る部屋に響き、かつての少年は更に笑みを深めた。  甘い甘い睦言(むつごと)より、忘れられぬ痛みと快楽を。それこそが、二人を結ぶ唯一の(きずな)たりえるのだから……  かくて反旗は(ひるがえ)り、血潮に濡れた刃は振り下ろされ、訣別(けつべつ)の時は訪れる。  断罪の刃は何を斬り、何を残すのか。それはいずれ、白日の下に晒される。  しかし今はまだ、(きた)らざる未来の一頁(いちぺーじ)に過ぎない。               了。
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