第零幕 いい日旅立ち

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海というのは、人を感傷的にさせる、なにかがあるらしい。 少なくとも、そうでなければ隣に立つにやけた胡散臭い男との別れを、欠片でも寂しいと思うはずがない。 「にやけた胡散臭い男とは心外だなぁ。 僕は医者だよ? 患者のために、常に笑顔でいようてしているだけなのに。 君は、なぜそんなひねくれた子になってしまったんだい? ねぇ、小唄鳴海(コウタ・ナルミ)くん?」 この自称医者は、俺の主治医。 一応。 副業で医者をやってる拝み屋で、テロップに介入する異能を使う。 本職はアフリカの呪医、ウィッチドクターとかだ多分。 そして俺は小唄鳴海。 発音的にどっちが名字でどっちが名前かわかり辛いと言われ続けて16年。 「微妙に気にしてるのでフルネームで呼ばないでください。 あと、俺がひねくれたのは先生の指導の賜物だと思いますよ似非医者が。」 言葉を区切りながら婉曲にしゃべくるくそ医者に対し、俺は一気に言い切るタイプ。 論法は似てしまったが、喋り方まで似てたまるか。 「……君と、こんな言い合いをするのも、最後になるのだねぇ」 先生がしんみりと呟く。 「ええ、ストレスを溜めずにすむのでとても嬉しいです」 いつも通りの憎まれ口。 これが最後だから。
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