第零幕 いい日旅立ち

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遠く、白い船が冬の荒波を切り裂いて、港にやって来る。 俺を、新天地へ運ぶ正に方舟。 「君と過ごした時間は、一年ととても短かった。 だが、僕にとって、君との一年はとても楽しく、有意義だったよ」 お、最後に医者らしいことを…… 「それだけに、君のような観察のしがいのある、それもレアケースを他人に預けなければならないとは、惜しい限りだ」 ……前言撤回。 「そうですか。 では俺の見送りがすんだら心置きなく海底に沈んで魚の観察でもなさってください」 ぶっちゃけ、二度と浮かんでくるな。 「そうはいかない。 僕には、まだやるべきことや、研究すべきテーマが、沢山ある」 大仰な身ぶりて語るにやけ七三分け。 「来世に持ち越したらどうです?」 ぶっちゃけ、輪廻の輪から消滅しろ。 「だめだめ。 今日できることは、明日に回さない。 君に、何度も教えたことだよ?」 同時に、一番守れていない教えだが。 「僕は、君に様々なことを教えてきた」 唐突に、にやけた顔から真顔になる。 「今の君の学力からいうと、来年四月から高校に行かせてもいいくらいだ。 中学三年間の課程は、実質履修しているといっていい」 でもね、とその顔が笑う。 「僕は君に、義務教育の九年間、高校生活の三年間、そしてできれば、大学や専門学校での時間を過ごしてもらいたいと思っている」 その笑顔は、とても寂しそうで、 「その時間は、君の心に残る深い傷を、必ずや癒してくれるて信じて、この中途半端な時期に、いや、君にとっては、過去が原因で休学してちょうど一年の今、過ごすことのできなかった時間を、取り戻してもらうために、風見学園付属に編入してもらった」 茶化すなど、とてもできなかった。
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