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いきなり翌朝まで時間を進める。
港で拾ったタクシーに風見学園近くまで送ってもらい、まだ誰も歩いていない桜並木の下を歩く。
タクシーの運ちゃんの話だと、真っ直ぐ行けばいいそうだから迷う心配はないがしかし、
「真冬だってのに、桜が満開とはねぇ。
先生の与太話かと思ってたぜ」
ひらり、はらりと桜が舞っている。
驚くほどゆっくりと。
濃密な桜の香りに、目眩すら覚える。
「桜の下には、死体が埋まっている。
その死体から、血を吸い上げるから、桜の花は白から薄紅色に染まり、樹皮からはきれいな赤色の染料が採れる」
先生の与太話の一節を口に出してみる。
それに見合った光景に、背筋が粟立つ。
この桜並木を染めるには、一体何人分の血が必要なのだろうか。
朝の陽光を透かす薄紅が、少し濃くなった気がして怖くなる。
日本人が親しむと同時に、畏怖の対象とするのが理解できるような光景。
これから、俺の日常となる風景。
赤い煉瓦敷の道を、薄紅に染める桜の下、満開と言うより狂い咲きとも言うべき下を歩く向こうに、風見学園は見えてきた。
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