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桜並木の向こう、道路を挟んで建つ、風見学園。
その校門前に、一人の女性が立っていた。
きっちり着こなしたスーツに白衣を羽織っている。
あの人が、水越先生か。
デイバックの紐を肩にかけ直し、校門前に向かう。
「君が、小唄鳴海くん?」
やや、大雑把な感じのテノール。
「あなたが、水越先生ですか?」
返答はこれで十分。
これだけで、肯定も相手の確認もできる。
可愛いげはないが。
「ええ、そうよ。
これから、君の主治医みたいになるわね。
といっても、本職のカウンセリングが必要な段階は過ぎているし、リハビリみたいなものだから、私にできることはほぼないけれど」
水越先生は肩をすくめると、着いてきて、と言うように背を向け歩き始める。
「とりあえず、学園長は所用で遅れるからまずは担任に挨拶。
ホームルームまで保健室で待機して、時間になったら教室に行って授業を受けてもらうわ。
教科書は用意してあるし、荷物は下宿先に届いてるから心配しなくて大丈夫。
学園長との面会は……、昼休みくらいかしらね」
ポンポンと矢継ぎ早の指示。
……人に指示出し慣れてね?
くそ医者の同期生らしいけど、なんか似たような匂いがするなぁ。
「……今、失礼なこと考えなかった?
例えば、私が木林君に似てる、とか」
げっ、鋭い。
慌てて首をブンブン振る。
あ、あのくそ医者、木林って言います。
くそ医者、藪医者言ってて忘れかけてたけど。
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