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スーツも残存した毛根もくたびれきっている、冴えない中年の担任に挨拶して、保健室へ向かう。
「で、君の症状の確認なんだけど……」
水越先生は、緑茶の入ったマグを俺の前に起きつつ、こちらを伺うように見た。
「構いませんよ。
デリケートな問題と言えばそうですが、だからと言って先生にまで隠すわけにもいきますまい」
緑茶をすすりつつ、肩をすくめて見せる。
「俺の症状は、過去の記憶の欠落と、女性恐怖症。
原因は、なにやら実の母親に殺されかけたかららしいですよ?
覚えてませんけどね」
そう、俺に過去……、この一年間以外の記憶はあまりない。
全くではないが、覚えていることもひどくあやふやで、記憶と呼べるのかも怪しい。
「女性恐怖症って話だけど、私とは普通に話してるわよね?
年上は女として見ないタイプ?」
何を言い出すやらこのおば……げふん、おねぇ様は。
やばい。
今、目が間違いなく殺気をはらんだ。
「俺の場合、女性が恐怖の対象となるんじゃなくて、触れないんです。
触ると、拒否反応を起こします」
俺の説明に、水越先生が眉根を寄せた。
「拒否反応?」
あ、やっぱりそこに食いつく?
「はい、大体においては嫌悪感ですかね。
我慢できないほどじゃないんですが。
ひどいときにはもう……」
チャイムが鳴り響く。
「さて、教室にいくわよ」
あれ? 説明途中なんだけど?
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