第零幕 いい日旅立ち

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すきま風の吹く、おんぼろアパート。 心を軋ませる、茜色の空。 踏んだスチールの階段が、ギシギシ軋む。 つかんだ錆びだらけの手すりが、ギイギイ軋む。 コンクリートの床を踏む、靴の高いヒールが経年劣化でキシキシ軋む。 ドアノブの鍵穴に鍵を差し込み回すと、砂を噛むような音を立ててグチグチ軋む。 ドアノブを捻り開くと、錆び付いた蝶番がキチキチ軋む。 部屋に帰ってきた、あなたの心もキリキリ軋む。 眠ったふりをする、俺の心臓もキリキリ軋んだ音をたてる。 木と木が擦れ合い、キュリキュリ軋む。 それが開閉二回。 あなたの手には、赤いネクタイ。 軋みの最後端。 そして俺が、その最前線。 あぁ、世は事も無く万物常に軋むものにて御座候う。
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