第零幕 いい日旅立ち

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奇妙な夢を見た。 どこかの古いアパート。 俺はその一室で誰かを待っている。 軋む音が充満する夢の中で、俺は誰を待っていたのだろう? それも、寝たふりをしながら。 目を開けると、見知らぬ木目の天井。 蛍光灯は点いておらず、窓から黄昏の光が差し込んでくる。 もうすぐ、あの夢と同じ茜色の空に変わるのか。 ……あれ? 俺、学園に行ったはずなのに、なぜ見知らぬ部屋で布団にくるまって寝てるんだ? 見回すと、純和室。 畳張りの四畳間。 積まれた段ボールには見覚えのある筆致で『冬物』やら『本』やらの表記。 「……学園から時間と距離を超越して下宿先に着いた、と?」 んなわけあるめぇよ。 必死で記憶をたどる。 「たしか俺は、冗談のわからない女こと、水越先生に殴られて、うずくまったところに同じクラスであろう女子から背中をさすられて、格好悪く気絶て感じかな?」 「うん、大体あってるね」 俺の声に答える、女の声。 正面に見える襖が開き、金髪を両サイドのみをくくり、後髪は流したなかなか洒落者の女の子が入ってきた。 どう見積もっても小学校高学年くらい。 中学には入っていまい。 「ようやく目が覚めたみたいだね。 小唄鳴海くん?」 にこりと女の子が微笑む。 見た目不相応の、母親のような優しい微笑みを。 母親。 その発想に、どこかがミチミチ軋む。
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