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「それと、もう一つ」
おもむろに彼女は白衣のポケットに手を入れて、小さなケースを取り出した。
そのケースを開けると、中には注射器のような物が見えた。
「この注射器の中には、ウィルスが入っています。これを、血管に刺せばコレになるのです」
コレ、と言いながら後ろの檻を指差す。相変わらず、ガタガタと格子を揺らしながら、空腹を満たしたい一心で口を大きく開けている。
「このウィルスを、皆さんの中の20名程の昼食に混入させて頂きました」
一気に吐き気が迫り上がるが、なんとか耐えた。昼食をとってからあまりにも時間がたちすぎている、吐き出しても無意味かもしれない。
「食堂の定食から、個人が持ち込んだ弁当まで無差別に選びました。ちゃんと公平なので、安心して下さい」
何も安心出来ない。
「ウィルスの効果は遅く、多少の個人差はあるでしょうが……そろそろ出る頃合いですね」
腕時計を確認しながら、彼女は言う。それにつられて、私も自分の腕時計を確認する。
説明が始まって、もう30分ほどがたとうとしていた。
「では、今から5を数えて、その後に実験開始を宣言します。そうしたら、出入口のスタッフが扉を開きますので、どうぞ自由に行動して下さい」
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