02 悪夢のはじまり

3/20
前へ
/52ページ
次へ
「……ダメ、圏外だ」 「え、ウソ、見せて」  見事なデコレーションを施された携帯を受け取って、画面を見る。 待ち受けは可愛らしい子猫の写メだ。画面左上に視線を移してみると、確かに圏外だった。 「学校で圏外とか珍しいね」  携帯を返すと、彼女は少し残念そうな顔をしてポケットに携帯を入れる。 「もしかして、工事のせいかな?」 「ああ、一日中凄く煩かったやつね」  休み時間どころか、授業中まで騒音を発していた非常識な工事だ。 先生の声を掻き消すような大きな機械音を思い出して、また耳が痛くなってきた気がした。 やっと休憩に入ったのか、今はその音はしないが。 「学校の周りを綺麗にする為、って言ってたね」 「別に、汚くなんかなかったと思うけど……」  そう呟いた丁度その時、舞台上に人影が現れた。 私は今最後尾に立っているが、目が良いので誰なのかはっきりと分かる。教頭先生だ。 「し、静かにして下さい」  マイクを通しているというのに、ひどく小さな声だった。 そんな小さな声で全校生徒に聞こえるわけがない。多くの生徒が教頭の登場に気付かず話を続けている。 「静かにしてください」  さっきよりも幾分声が大きくなったから、その声の震えもよく聞こえた。 顔面蒼白で、額に流れる汗をしきりにハンカチで拭いている。 明らかに様子がおかしい。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加