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「……ダメ、圏外だ」
「え、ウソ、見せて」
見事なデコレーションを施された携帯を受け取って、画面を見る。
待ち受けは可愛らしい子猫の写メだ。画面左上に視線を移してみると、確かに圏外だった。
「学校で圏外とか珍しいね」
携帯を返すと、彼女は少し残念そうな顔をしてポケットに携帯を入れる。
「もしかして、工事のせいかな?」
「ああ、一日中凄く煩かったやつね」
休み時間どころか、授業中まで騒音を発していた非常識な工事だ。
先生の声を掻き消すような大きな機械音を思い出して、また耳が痛くなってきた気がした。
やっと休憩に入ったのか、今はその音はしないが。
「学校の周りを綺麗にする為、って言ってたね」
「別に、汚くなんかなかったと思うけど……」
そう呟いた丁度その時、舞台上に人影が現れた。
私は今最後尾に立っているが、目が良いので誰なのかはっきりと分かる。教頭先生だ。
「し、静かにして下さい」
マイクを通しているというのに、ひどく小さな声だった。
そんな小さな声で全校生徒に聞こえるわけがない。多くの生徒が教頭の登場に気付かず話を続けている。
「静かにしてください」
さっきよりも幾分声が大きくなったから、その声の震えもよく聞こえた。
顔面蒼白で、額に流れる汗をしきりにハンカチで拭いている。
明らかに様子がおかしい。
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