63人が本棚に入れています
本棚に追加
……箱がガタガタと揺れているように見えるのは、ただの気のせいだろうか。
「開けて」
春風さんが白衣の男達に指示を出すと、彼等は箱を開き始めた。中には猛獣を入れるような頑丈な檻があり、周りは太い鎖と幾つもの南京錠で囲われている。
その檻の中に、ゆらゆらと見える黒い影。
それが“何”であるか、私は理解出来なかった。否、理解することを拒んだ。
「いやあああああ!」
最前列から悲鳴が上がる。
泣き出す生徒も現れるが、誰も逃げることが出来ない。黒服が出入口の前に立っているから。
ああ、やはりあれは――
「ね、ねぇ、これドッキリかな……?」
美咲が、私の袖をひいて小声で尋ねた。周りの反応もそんな雰囲気だ、確かにここから見るとあれが人形のように見えなくもない。
檻へと視線を向ける。檻の中は満員電車のような状況だった。ぎゅうぎゅうに詰められ、見ているだけで息苦しい。
私はその中に見覚えがある顔を見つけ、指さした。
「あの、一番手前。松村先生だよ」
「え……」
白髪混じりの髪に、黒い縁の眼鏡。口をパクパクとさせながら、格子にしがみついている。あの眼鏡の形は古くて、今時松村先生くらいしか掛けていない。
「あ、本当だ。松村先生だね」
「うん。その隣は、神奈川先生。後ろは上田先生かな」
「じゃあ、あの中にいるのって……」
美咲が少し青ざめた顔をこちらに向ける。私の顔も同じように青ざめているのかもしれない。深い溜息をついて、私はゆっくりと頷いた。
「そう。あの中にいるのは、この学校の先生達だよ」
最初のコメントを投稿しよう!