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それだけでも十分衝撃的な光景なのだが、次は更にその上をいってしまった。
崩れ落ちた松村先生に、突然、一斉に周りの先生が群がったのだ。光に集まる蛾の如く集まり、そして――食った。
「コレらには理性がなく、自身の食欲にだけ忠実に従います」
びちゃびちゃと血が舞台に落ちていく。
ああ、首に食らいついているのは神奈川先生だろうか?
いつもばっちりメイクをほどこしていた顔も、上品な印象を与える洋服も、血で汚れてしまっている。
不意に、袖を強く引っ張られた。隣を見ると、美咲が目に涙をいっぱい溜めて震えている。
私は、彼女の手を袖から引きはがした。
不安げにこちらに視線を向ける彼女を無視し、彼女の手をしっかりと握る。
「袖より、こっちの方がいいでしょ」
彼女は何度も頷きながら、私の手を強く握り返した。
私は再び、舞台に目を向ける。松村先生の方に人が集まり過ぎて、箱は傾き今にも倒れそうだった。
だが、そんな心配は無用だった。白衣の男性が箱の裏に回り込み、松村先生と対角線上にいる人を殺したのだ。
松村先生に群がっていた先生の半分がそちらに行き、箱はバランスを取り戻した。
「今は死体の場合を見て頂きましたが、今度は生者の場合を見てみましょう。――教頭先生」
「ひ、ひゃい!」
突然呼ばれ、彼は裏返った声で返事をした。普段なら笑えるかもしれないが、この血に濡れた舞台を前にして笑える猛者はここにはいない。
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