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混乱と恐怖で回転が鈍い頭でも、直ぐにこの場から逃げなければならないことだけは理解出来た。5分後にはあの檻からゾンビが放たれるし、発病した不運な生徒に噛まれたくない。
まあ、その不運な生徒が自分である可能性もあるが……
「カウントしますよ。ごー」
……えらく間延びしたカウントだ。生徒達が慌てふためくのを見たいのだろうか。
「ど、どうしよう……?」
美咲は私に縋るような視線を送る。私は無理矢理笑顔を作って、安心させるようにいつも通りの口調で言った。
「とにかく、ここから逃げよう。ここに居ては危ないから……そうだ、正門。正門に行こう」
よーん、とカウントが刻まれる。美咲は私の自信に満ちた回答に少し落ち着いたようで、小さく頷いた。
勿論、私の自信に根拠はない。正門を目的地にしたことに意味は無く、咄嗟に思い付いただけだ。
さぁーん、という声が体育館に響き渡る。
「さあ、ちょっとだけ屈伸して足首回しておこうか」
足をつって動けない間にガブリ、なんていう笑えない事態を回避する為に軽く準備運動をする。にぃーという声が途切れると、私達は再びしっかりと手を繋いだ。
「いーち」
春風さんが高く掲げる手が、握りこぶしになる。
この張り詰めた空気が、妙に息苦しい。
「スタート」
その声と共に、私達は扉の隙間からこぼれる光へと駆け出した。
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