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「キョースケ! たい焼き買いにいこっ」
レイは部屋から出ると、打ち上げ花火のようなテンションになり、俺の服をぐいぐい引っ張る。
俺は断固線香花火派なので、テンションは急降下。
たい焼きね……。あんなもののどこがいいんだか。
レイは基本的に物体に触ることは出来ないが、憑いている俺だけにはかろうじて触れるらしい。
気の乗らない俺は、仕方なしに重い足取りで甘ったるい匂いがする商店街へと向かった。
と、人ごみに紛れて隣を見知った女が横切った。クラスメイトだ。
ここの商店街は今の時間下校中の生徒で賑わっているが、俺に話しかけるやつなどいない。
同じクラスの連中は俺の顔を知っているのかさえ微妙だ。
高校入学して俺は学校内でほとんどしゃべったことがなく、おかげで俺には失語症という愉快なあだ名ができた。
ちなみに失語が名字で症が名前だ。案外カッコいい。
もっとも、こういう仕事柄あまり人と関わりたくないというのが本音だが。
そうこうしてる内にたい焼き屋へ到着した。全体的に赤い雰囲気の店で、看板には大阪を髣髴とさせる巨大な鯛の機械が不気味に揺れている。
たい焼き嫌いになったのはこの機械にも原因がある。
額を袖で拭うと大量の汗が出ていたことに気づいた。これは暑くてかいた汗ではない。やっぱりたい焼きなんて大嫌いだ!
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