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レイのせいですっかり常連となった俺はたい焼き屋の主人に名前まで覚えられている。
「たい焼き……ニつ」
蚊の鳴くような声で注文すると、愛想のいいオッサンが豪快に笑い、俺の頭をバシッ、バシッ、バシッ、とリズムよく三回叩いた。
かなり痛い。
「ガハハハ! 冬木の坊主じゃねーか。最近こねーから死んだかと思ったが、元気そうじゃねーか!」
「元気そうですいませんね」
「うはー! その毒舌っぷりもたまんねーな!」
この人はどうしてこんなにもテンションが高いのだろうか。毎日がクリスマスみたいなテンションだ。
角刈りに大変似合っているねじりハチマキ姿のオッサンは、元漁師らしい。
漁師を引退してまでこんな魚の紛い物を売りたいのだろうか。
「ほらよ坊主! 一つオマケだ!」
全くいらないお世話だ。店主の粋な計らいで、俺のノルマは一つ増える。
隣ではレイが、
「オッサン最高!」
と感嘆し、親指を立て突き出していた。と言っても聞こえるのは俺だけだぞ。
オッサンの話を適当に流し、俺はコンビニで弁当を買って、家路についた。
始終付きまとってくる甘い匂いを払うために少し遠回りをしたせいですっかり外は暗闇に包まれていた。
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