嫌な予感

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 レイには味覚がない。  いや、正確に言えば味覚と温度覚だけがない。  モナさん曰わく、たいていの霊は五感を持っているのは少なく、レイみたいなやつは希少らしい。  だから、レイは俺に憑依して味覚を楽しむのだ。  俺にとっちゃやっかい以外の何者でもない。 「キョースケ、早く食べて! 食べて!」  頭の中でレイが急かす。急いだところで俺の地獄が早まるだけなのだが、レイは容赦がない。しかし、憑依と言っても主導権は俺にある。  目の前には俺が並べた3つの悪魔。心なしか俺をあざ笑っているかのようだ。  くそっ……待ってろ。そんな目をしていられるのも今のうちだすぐ俺が地獄に……。 「キョースケ! 早く食べて!」 「はい」  俺はたい焼きを頭からいやいや口にした。舌にはブニョっとした感触とあんこのざらざらとした食感。そして、甘さが口全体を支配する。 『はうぅ……さいっこう!』  頭の中ではレイの嬉しそうな声が響く。まさにとろけそうな声。  ……頑張らないといけないみたいだ。  レイに悟られないように、嫌な感情は押し殺す。  好きなものを食べてるときくらい良い気持ちでいてもらいたい。  やがて気合いで3つ全て平らげた俺は脱力し、その場で仰向けになった。  最後あたり3匹の赤い魚が川の向こうから呼んでくる幻覚を見たが気にしない。  レイも満足したのか憑依を解く。  レイが抜けていくのが感覚でわかる。やはり、いつもと違い違和感を感じる。 「あぁー、美味しかった……」  一方、うっとりしながら明後日の方向を眺めるレイは、なんとも間抜け面だった。
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