嫌な予感

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 茹でる頭、汗ばむTシャツ、ジリジリとこの商店街全体を焼き付ける真夏のある日。  最高だぜ! なんて熱血男っぽく言ってみたが、無理、暑い。  そしてこの甘い匂い。とにかくキャラメル臭が強い。暑さとぬっとり絡んで、のどにへばりつく。  しかし隣でふわふわシャボン玉のように空中で漂っているレイにとっては、天国のようらしい。  そのまま昇天しちまえと内心悪態づき、浮遊してるレイを一瞥。  汚れのない純白の着物に赤い帯、さらに雪のように真っ白な腰まである髪の毛に清涼感溢れる青い瞳。全てがこの世のものとは思えない潔白さを備えていた。  現在だらしなく浮いているため、雪のように、とか形容した髪が、今は白いそうめんみたいで、それが顔を遮ってかなり怖い。  そんなとても目立つ風貌だが気づく人はゼロ。  まぁ、当たり前だな。『幽霊』なんだから。  レイは一段落匂いを堪能したあと、俺に話しかけてきた。どことなく甘えた表情を纏わせて、 「なぁなぁ、キョースケ。あたしたい焼き食べたぃ……」 「ダメだ」 「ぶぅ」  頬を可愛く膨らませたレイは、また匂いを堪能する作業に戻る。  髪の隙間から出た小さな鼻を忙しく動かすレイは犬を連想させた。  こんなところがなければホントに可愛いんだが……。 「じゅる……たい焼きぃ」  いや、気のせいだろう。  俺は波のように押し寄せる人を器用に避けながらレイを再び見る。  レイはそんな苦労を知る由もなく、通行人を涼しい顔ですり抜けていた。  正真正銘の幽霊だ。
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