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部屋に一度足を踏み入れると、強烈な線香の匂いが体中を包み込む。時間感覚が狂ってしまうくらい二十四時間薄暗い部屋。
昔はずいぶんこの匂いと暗さに悩まされたが、人の適応力は凄い。自然と体自体が気にならなくなってしまう。
一面オカルトグッズで溢れていて、なんの動物かもわからない剥製、奇怪な形の時計複数、さらには試験管までもが棚に陳列されている。
まるで統一性がない。
しかし、床に物は一つも置いてなく、足の踏み場に関しては問題ないのが唯一の救いだろう。
外観同様内装も酷いもので、あちらこちらにガタがきている。
床板も腐りかけてきて、歩くたびに踏んだら落とすぞ、と言わんばかりのうめき声を上げる。それでもまだ直さないんだろうな。
「やあ、鏡助クン。今日は随分と早いね。無駄がなくていいことだよ」
出迎え。と言ってもこの部屋で唯一高級な黒い椅子に偉そうにふんぞり返っているだけなのだが、その人物は頬を緩ませ言う。
「モナさん。いい加減ドアノブ買い換えてください」
ついでに電球も、床板も、ゴミ箱も、つか建て替えてください。
「そのうちね」
棒読みで流し、ヒビ入りの黄ばんだマグカップに入った安物のコーヒーを幸せそうな顔ですする。
絶対かえる気ないな……。もはやこの人の頭をかえてもらいたい。
この人の名前は清廉モナ(セイレンモナ)。
中性的な顔立ちと、普段の喪服のような服装から彼は男だと俺は勝手に思っている。
目鼻立ちははっきりしていて、町を歩けば男女問わず近寄ってくる、すなわち美形だ。腹立たしい。
が、詳細は未だに不明。
まあ、性別なんてどうでもいい。男だろうが女だろうが俺には全く影響がないし。それにモナ図鑑を作る気もさらさらない。
彼または彼女は儀式屋の創設者であり、俺の上司でもある。
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