嫌な予感

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 『儀式屋』は砕けて言えば何でも屋だ。  結婚式、葬式、通過儀礼などのまともな依頼から悪魔払いや除霊さらには宇宙との交信まで様々なことに手をかけている。  おもに俺は助手として働いてるが明らかに人手不足だし、俺は人として扱われているのかさえ危うい。  モナさんは仕事の度に俺に仮死体験をさせてくれて、この間なんかどこぞの部族に捕らわれた。褐色の頬に化粧を施した部族。今でも覚えている。  もうこの時点でモナさんを真剣に恨んだ。  さらに、なぜかそこで俺も成人の通過儀礼に付き合わされ、抵抗虚しく真っ裸にさせられた。  もちろんパンツはセーフなど生易しいものではない。スッポンポンだ。  こうしてフリーダムになるのは赤ん坊以来だから案外貴重な体験だったのかもしれん。  だが、あいつら俺のパンツを脱がしといて爆笑しやがった。核兵器を手に入れたら真っ先にこの部族へ落としてやろうと思った。  儀式の内容もまたバカみたいなもので、素手で熊に勝たなければならないのだ。  熊を倒さないと大人になれないなら、俺はネバーランド永住を希望する。  激しい格闘の中、身体中傷だらけになって運よく熊を倒した俺はそこの部族に歓迎されひっきりなしに何度も対戦を申し込まれた。  よそ者がこの儀式を成功させるのはかなり稀有らしい。当たり前だ。  そして全ての人と戦い終え、もう真っ白な灰になったとき、モナさんはやってきたのだ。  周りに転がってる俺が倒した奴らを何事もないように踏んで。  笑いながら大丈夫? 痛そうな傷だねえ、とか宣って。  前のことを思い出すと気が滅入る。  思い出は美化されるみたいだが、神様は俺にはそんな能力くれなかったみたいだ。  俺は激しい嘔吐感と突如蘇った殺意を押さえつけながら、モナさんの次の言葉を待った。
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