希望を託されし剣

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 高さ20メートルはあるだろうかという岸壁に、荒々しい波がぶつかっては砕ける。空を包む重く暗い雷雲が、嵐の海をいっそう凶暴なものに見せていた。  雷光。耳をつんざくような轟音とほぼ同時に光ったそれは、孤島に立つ一人の人間の姿を照らし出した。  決して大きいとは言えない体には青い軽鎧を纏い、腰には鞘におさめられた剣が提げられている。黒髪が健康的な顔には少年らしい力強さが溢れ、眼は若々しさに光っている。この少年こそが、世界中の希望を背負わされた「勇者」なのである。  勇者は眼前にそびえ立つ魔王の城を前に、今までの道程を思いかえしていた。──ザコモンスターとの戦闘で培った経験値が積もりに積もったこの鋼のニクタイは、刃に打ち勝ち矢を跳ね返すまでになった。タコヤッキの村の教会で出会った少女、彼女は真に世界の平和を願っていた。その時、自分は絶対に使命を果たすのだと誓った。カバンの中には一回使っただけで用済みになった「村長の紹介状」や、数えきれないほどの回復薬が詰まっている──。  思えばここまで長かったものだ。これから戦う相手は、水の神殿で戦ったアクアドラゴンや暗黒の穴で対峙したダークナイトより、桁違いに手強い。彼は身震いした。門に手をかけるのが躊躇われるようだ。  ──いや、違う。彼が魔王の城に入るのを躊躇するのは、魔王が怖いからではなく、彼が己の本当の使命を知っているからだ。彼の背負う任務は魔王討伐だが、その奥には、もっと、大切な義務があった。それは人々が少年に託したものより、辛く、悲しい真実。それを知るのは、勇者だけ。いや、正確に言うとあと一人……。この先に待っている結末を思うと、自然に足が重くなる。だが、行かねばならないのだ、世界に秩序を取り戻すためには。  やりきれない気持ちを固く結んだ表情に隠し、彼は両手でゆっくりと、城の門を開けた。
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