希望を託されし剣

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 ギィィ……。耳に障る音が魔王の城に響く。弱々しいシャンデリアの光しかない城内は薄暗かったが、開いた門の外から差し込んだ雷光が、エントランス全体を一瞬だけ照らした。  床一面に紅い絨毯が敷かれ、左右奥には二回へ登る階段が並んでいる。そして、正面の奥には──玉座に腰かける、黒いマントを羽織った灰色の肌の大男──魔王がいた。魔王は勇者の到来を認めると立ち上がり、人差し指を立てた。とたんに、エントランス中の蝋燭に火が灯り、全体を目視できる明るさになった。 「来たか……待ちわびたぞ、勇者」  鋭く赤い眼光が、勇者をとらえた。魔王は杖を手に取り、コツと床に撞いた。 「魔王……」 「さあ、剣を構えろ。最後の、闘いだ」 「魔王、やっぱり俺は……」 「どうした、来ないならこっちから行くぞ!」  勇者は胸に手のひらを置いて、必死な表情で、訴えるような語調で話しかけた。しかし、それがまったく言い終わらないうちに、魔王は床を蹴り、間合いを詰めた。  魔王の杖の一振りで、小さな火球が数個出現した。それは凄まじいスピードで勇者を襲う。勇者はそれを一つ残らず剣で弾き落とした。 「やっぱりこうするしかないのかよ……!」  勇者もついに臨戦態勢に入り、構えた剣と共に魔王へ向かって駆けた。間合いに入ると、剣を振り上げた。しかしそれは魔王の杖により防がれる。  それからは、すばやい剣劇の攻防が続いた。勇者の振るう剣の軌跡は最早目で追うには不可能に近く、それを防ぐ魔王の杖もまた同様だった。魔王は一度杖を大きく振って勇者を突き放し、距離をとった。 「ふん、やるな……。さすがはここまで辿り着いただけのことはある」 「お前もな」 「このまま延々と戦っていても勝負はつくまい。次の一撃で……幕引きだ」 「……ああ」  刹那、勇者の剣「ハリーセン」が、目を開けていられないほどの光に包まれた。使い手が本物の覚悟を決めたときに灯る聖光である。対して、魔王の身体も、より大きく、より禍々しく変化した。場を、光と闇が半分ずつ占拠している。 「……行くぞ!」  二人は同時に叫び、床を蹴った。
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