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「…クロォオ!!」
叫ぶ間もなくひらりと身軽に金属バッドを避けるその人――恐らくクロウさんというのだろう――は口許に柔和な笑みを浮かべたままに僕の傍に着地して、緩く小首を傾げて見せる。その仕草に愛らしさは無いが、他人を惹き付ける何かはあった。僕は固まったままに二人の動向をただ見つめているだけ。
「お前とヤり合う気はねぇよ、さっさと帰りな。彼も見逃すんだ」
アンジーは壮絶な笑みを浮かべる。まるで、憎しみと愛しさが織り混ざったような、不可思議な笑み。見るだけで寒気がする。アンジーは唇を舐めて…金属バッドを肩に抱えた。
「今日は見逃してやるよォ…今度こそクビ洗って待ってなァア…」
金属の穿たれた舌先が舐める唇は綺麗な赤。目に焼き付くそれから視線逸らせずに目を見張る。カラカラと金属バッドを引き摺る音と共にアンジーは緩慢な歩みで去っていった。
アンジーの笑顔が頭から離れない。まだ鳥肌は立ったまま。ふと、肩を叩かれる。反射的にそちらへと視線を向ければ、穏やかに微笑む綺麗な顔があった。
「大丈夫?」
思いの外優しい声。安堵に大きく息をつくと小さく笑う声、少し目線を上に上げれば、艶やかに輝く黒髪が揺れた。
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