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また最下位だ。
翼を広げてひらりと舞い降り、トンと地面に立って青空を見上げた。
深緑の風が僕を地上に置き去りにして空へ舞い上がる。
兄弟達はその風をナイフのように鋭い翼で切り裂いて加速し、高らかに歌いながら彼方へ飛んでいく。
僕は細い両足で地面を踏みしめて、遠くなって行く兄弟達の姿をしんみりと見送っていた。
「君、また競争に負けたの?」
聞き慣れた女の子の声に振り返えらず僕は応える。
「うん、そうなんだ」
背後でふいに空気が引き締まった気配を感じたと思ったら、頭上をスマートな影が通り過ぎ、彼女は洗練された隙のない所作で僕の目の前に着地した。
「もっと速く飛べるように私が特訓してあげようか?」
悪戯っぽく彼女はそう言った。
彼女は仲間の燕達の誰よりも飛ぶのが速い。
彼女に特訓してもらえば、僕は兄弟達の誰よりも速く飛べるようになるかもしれない。
だけど僕は彼女の有り難い申し出を断った。
「僕ね、最下位も嫌いじゃないんだ。これ以上落ちてしまうことがないから。地面に立つのが好きなのも同じ理由かもしれない。こうしてると落ち着くんだ」
「……そう」
彼女はどこか寂しげに呟いて飛び立った。
僕は追いかけようと開きかけた翼を、また静かにたたんだ。
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