『日常』のパラドックス ~上~

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黒い人形の体が浮き赤い髪に吸い寄せられ、ドガっ!! と強烈な肘、エルボーを顔面喰らわされた。   「は? え?」   何も理解出来ない美玖は捨て置き、黒い人形は後方に仰け反った。   赤い髪はさっさと手を離し、最後の一体を探す。だが見回す限り人影はなく、沈黙した世界が広がるばかり。   周囲に気を配る赤い髪。しかしそれはすぐ後ろいて赤い髪に飛び掛かって来た。   「後ろ!!」   と声を上げた美玖。でもそれも分かっているとでも言うように、赤い髪は難なく黒い殺意を『避して見せた』   (まただ……)   美玖は奇妙な感覚に囚われる。先ほどの一撃も今回も、素人目にしても絶体絶命。   それをまるで『ねじ曲げる』ような事が起こっている。赤い髪は肘を折り曲げ、銃口を黒い頭部に向け一言。   「終わりだ」   アルトボイスで引き金を引いた。       モノクロの世界/黒い人形/赤い髪/鳴り響く轟音/閃光するマズルフラッシュ……。   そのどれもが非日常過ぎて美玖の頭はパンクしそうだった。だってまずありえない。普通に生きてきた中で、このような体験したことがない。   呆けて尻餅をつく姿勢の美玖。ドサリと音を立て崩れ落ちる黒い人形。そこに何事も無かったように佇む赤い髪。全てが全て、常軌を逸している。   「………」   先に動いたのは赤い髪だった。後方にいた美玖に振り返り、僅かに聞こえる足音を立てながら美玖に近づく。   座ったままの美玖はそれをただただ見つめる。そして二人の距離は地面のタイル二つ分。赤い髪が見下ろし、美玖が見上げるという形になっている。   すると赤い髪が跪き、美玖の頬に手を伸ばす。もはや意味不明でお手上げ状態の美玖は成すがままになってそれを黙って受け入れる。   (何!? 何!!)   表面には出さないが相当テンパっている美玖は、優しく頬笑む赤い髪に思わず顔を赤くする。   「………るよ」   「え?」   小さく呟かれた声に美玖は首を傾げる。   「俺が君を……」   美玖はその愛しく見つめる赤い髪に手を伸ばして、   ―――護るから。   世界が反転した。     気付けば美玖はイチョウ並木の大通りで腰を着き右手を差し出し、呆けていた。  
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