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美玖は周りを見回す。そこは人が賑わう喧騒で、隣の道路には車が行き交う。イチョウの葉がひらひらと舞い落ち、目に映るビルも灰色で、地面に張られたタイルはカラフルだった。
他愛ないおしゃべりが美玖をすり抜けて行き、近くの公園では子供がはしゃいでいる。
遠くで絶え間ないクラクションが響き、横断歩道は『とおりゃんせ』が流れる。
美玖が体験した《世界》が嘘であったかのように全てが色を取り戻し、息づいている美玖の知る《世界》
「戻った……? 助かったの?」
その事にまた呆然していて、ちらほらすれ違う人々の視線が痛く立ち上がる美玖。
そしてもう一度見回す色づく世界。そのことに涙腺が緩む。
(戻ってきた、助かった)
目尻に溜まり始めた涙を拭おうとした、その時だった。
「危ない!!」
その大声は誰に掛けられた言葉なのか、美玖は声がしたほうに向きこうとして、
――パァー、パァーー!!
聞いた事のある鈍い音、それは運搬でもっとも重量のある車。
「え?」
トラックが美玖の目の前に迫ってきて――、
ドガッシャアアアアン
街路樹の大通り、人の賑わう変わらぬ日常。そこに突然起きた大惨事は、至るところから悲鳴が木霊する。それはよく晴れた日曜の午後の事だった。
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