『日常』のパラドックス ~上~

11/68
前へ
/70ページ
次へ
美玖は周りを見回す。そこは人が賑わう喧騒で、隣の道路には車が行き交う。イチョウの葉がひらひらと舞い落ち、目に映るビルも灰色で、地面に張られたタイルはカラフルだった。 他愛ないおしゃべりが美玖をすり抜けて行き、近くの公園では子供がはしゃいでいる。 遠くで絶え間ないクラクションが響き、横断歩道は『とおりゃんせ』が流れる。   美玖が体験した《世界》が嘘であったかのように全てが色を取り戻し、息づいている美玖の知る《世界》   「戻った……? 助かったの?」   その事にまた呆然していて、ちらほらすれ違う人々の視線が痛く立ち上がる美玖。 そしてもう一度見回す色づく世界。そのことに涙腺が緩む。   (戻ってきた、助かった)   目尻に溜まり始めた涙を拭おうとした、その時だった。   「危ない!!」   その大声は誰に掛けられた言葉なのか、美玖は声がしたほうに向きこうとして、   ――パァー、パァーー!!   聞いた事のある鈍い音、それは運搬でもっとも重量のある車。   「え?」   トラックが美玖の目の前に迫ってきて――、    ドガッシャアアアアン          街路樹の大通り、人の賑わう変わらぬ日常。そこに突然起きた大惨事は、至るところから悲鳴が木霊する。それはよく晴れた日曜の午後の事だった。  
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加