『日常』のパラドックス ~上~

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  自分に「おはよう」って、今日の夢はとびっっきりに悪かったねって。   『なぁぁぁぁあんんんんんんじぃぃぃぃぃぃいーー!!』   「ひゃあああ!?」 どうもきょうの悪夢は今までの最上級で、まだ美玖はベッドの中らしい。……ちなみに今の時間は分からない。   美玖は腕時計をしない派の人間なので時刻確認は学校の始業開始ベルか、そこらへんで堂々とつったている公共の時計でしか確認できない。   だから『何時?』と聞かれても美玖には答えようが無いのだ。   『ゼェー、ハァー。ゼェ、人の、質問には、ハァ、ちゃんと答えんか?』   「は、はいぃ……」   声だけ聞こえる存在は人かどうかも怪しいと思う。息使いも荒いし。そんな考えと返答で何とか落ち着きを取り戻していく美玖。   あくまでもほんとに少しだけ落ち着いた程度で、パニック状態なのは変わらないが。 美玖は震える足を叱咤し、ゆっくりと立ち上がる。そのまま高くなった視点で周りを見回すようにもう一度確認する。一面に広がるのはモノクロの世界。色を取り戻した場所は何処にも無い。   認めよう、これは現実に起きている―――かも知れない。   『現実だアホンダラ』   「ひ、人の考えを読まないでよ。てかさっきから何なの?」   『ふん、ようやく聞いたか。いつかいつかと楽しみに待っていたぞ?』   声の主はそれはもう上機嫌に返してきた。それこそ鼻歌でも聞こえてきそうな感じで。もうこの際そんなのはどうでも良かった。今は少しでも情報が欲しい。自分を落ち着け、今この目に映る不可思議を受け入れられる納得できる説明が、   『しかし残念ながらその質問には答えられそうには無いな』   だがそんな淡い期待も真っ向から切り伏せられた。また美玖は泣きそうになる。   「どうしてようぅ……。なんでぇ?」   『つっ!! うぅ、そんな切ない声出すな。我に肉体があればどうなってるか知らんぞ?』   何がだろうか? 少なくとも今の言葉で分かったことは声の主には体が無いかもしれないという、恐怖要素の一点追加。そのまま頭に響いた『ごっつあんです』なんて言葉は美玖の中では速攻でゴミ箱行きになった。後はワンクリックで完全消去。いい時代になったものだ。   『簡単に言うとな、……時間切れだ』   「え?」  
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