高田林

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「すみません」 謝りながら、歩幅を広げて電話に突き進む。 彼の絡みつくような視線を、少しでも早く自分の視界から切り出したかった。 アーチ戸をくぐり抜け、白いプッシュホンの受話器に手を伸ばす。 同時に部屋の様子が目に入り、私は先ほどとは比べものにならないくらい息を飲んだ。 中央の草色のソファーに伊達小夜子がゆったりと座っていたのだ。 「あら、お久しぶり」 小夜子の様子は昼間と完全に違っていた。 おどおどしておらず、自信に満ち溢れていた。 私を『スグクル文具』の社員とは、到底思っていないだろう。 嫌な汗が背筋に流れた。
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