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冥界と呼ばれる地がある。
見渡す限り岩だらけで、植物など少しも見えないそこは、しかし、死者の国という訳では無い。
そこに住むのは人を喰らう魔物。彼らは人間とさほど変わらない姿をしているが、その頭には一対の角がある。
人間が足を踏み入れたら、その遺体すら見つからない事が多いので冥界といってもあながち間違いではない。
そんな所で生きるには、僕の頭には少しばかり異常が有った。
「おい、人間が通るぜ!」
「よくこんな所に居られるよな」
通りに出たとたん、悪意のある声が僕を包んだ。
魔物といえど、年中人を食べる訳ではない。ちゃんと冥界にも店はあるし、そこには鹿や猪など、野生の動物の肉が置いてある。
ただ、僕たちの概念では人間も鹿も猪も同じくだと考えているだけで、人間のみを好んで食べる訳ではない。
鹿肉が欲しくて外へ出た僕だったが、早くも周りからの悪意に気が滅入って来た。少し歩くスピードを速くした僕に、周りの子供たちもスピードを速くする。
そのまま早く歩く事に没頭していたので、いつの間にか人が居なくなっていたことに気づくのが遅れた。
ドン、と誰かにぶつかる。
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