カルマ

4/5
前へ
/17ページ
次へ
「ぼ、僕…です、か?」 「カルマ、と言ったろうが。それとも他にそんな名前の奴が此処に居るのか?」 緊張でかすれる声で訊くと、不機嫌そうにお父さんが答えた。これ以上機嫌が悪くならないうちに、そろそろとお父さんの後ろあたりに入る。 それを見てお父さんは少しだけ眉をひそめたが、今度は何も言わなかった。きっと、必要以上にびくびくしているのが気に入らなかったんだろう。 再び歩き出したお父さんの後ろに着いて、僕も歩き出す。予想外の出来事に鹿肉なんてどうでも良くなった。 ふと、横に伏した人々から、忍び声がもれた。 『角無しが』 『人間のくせに』 そう、僕には角がない。 お父さんの角はとても立派な雄牛の角だ。黒々としたそれは堂々としていて、お父さんの蒼くて長い髪によく栄えた。 僕を生んですぐに亡くなったお母さんは、珊瑚の様に真っ赤でとても美しい角を持っていたらしい。 それなのに、僕の頭には真っ黒い髪が生えているだけで、角なんて無い。 一度どうしてかお父さんに聞いた事がある。 曰く、『業が深いから』とか。 おかげでカルマなんて名前をつけられた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加