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「ぼ、僕…です、か?」
「カルマ、と言ったろうが。それとも他にそんな名前の奴が此処に居るのか?」
緊張でかすれる声で訊くと、不機嫌そうにお父さんが答えた。これ以上機嫌が悪くならないうちに、そろそろとお父さんの後ろあたりに入る。
それを見てお父さんは少しだけ眉をひそめたが、今度は何も言わなかった。きっと、必要以上にびくびくしているのが気に入らなかったんだろう。
再び歩き出したお父さんの後ろに着いて、僕も歩き出す。予想外の出来事に鹿肉なんてどうでも良くなった。
ふと、横に伏した人々から、忍び声がもれた。
『角無しが』
『人間のくせに』
そう、僕には角がない。
お父さんの角はとても立派な雄牛の角だ。黒々としたそれは堂々としていて、お父さんの蒼くて長い髪によく栄えた。
僕を生んですぐに亡くなったお母さんは、珊瑚の様に真っ赤でとても美しい角を持っていたらしい。
それなのに、僕の頭には真っ黒い髪が生えているだけで、角なんて無い。
一度どうしてかお父さんに聞いた事がある。
曰く、『業が深いから』とか。
おかげでカルマなんて名前をつけられた。
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