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一羽の小さな鳥が、花畑に降り立ち、地面をついばむ。キョロキョロと周りを見ては、2・3歩跳ね歩き、鳴いていた。さえずりは窓で遮断され、聞くことは出来なかった。
「1人なの?」
ボソッと、窓越しに語りかけた。
鳥と目があった気がして、少しうれしくなった。
「私と同じね…」
小鳥にその声は聞こえるはずもなく、その後すぐ飛び立ってしまった。
ー…コトッ…
「紅茶でございます」
いい香りのする紅茶が、レイの前に置かれた。
「今日はお休みですか?仕事も休み休みやらないと身が持たないですからねぇ」
マスターはまたにこやかに語りかけてきた。どこかのOLと勘違いしているのだろう。学校に制服がなく、大人びた容姿が余計にそれを助長させた。
「どうも…」
別に敢えて否定もせず、紅茶を口に含む。甘い香りがレイを浸した。
「美味しい…」
その言葉を聞いたマスターは、ごゆっくり…とその場を去って、奥へと引っ込む。
レイは、胸から写真が入ったペンダントを取り出した。
『ロバート&サリサ=ゼノークス』
ペンダントの裏に掘られた刻印が、やや煤けてきている。表の蓋を開けると、若い男女の写真。長身の優男が、知的な女性の肩を抱いている。ロバートとサリサ…レイの両親だ。写真には、A.D2278.3.9と書かれている。今から21年前…レイが生まれる3年前の写真だ。ある機関の研究員だった2人は、レイが生まれてからも、なかなかレイと一緒にいてあげられなかった。幼少の頃は、田舎の祖母の家で暮した。それでもレイは、父と母の事が大好きだった。優しかった父と母の思い出しかない。
その父と母が殺されたのは、今から4年前…レイが中学の頃だった。研究室で、大量の出血とともに発見された。死因は銃弾による失血生ショック。未だに犯人はおろか、なぜ事件に巻き込まれたかもわかっていない。小さい頃、寂しくないようにと貰ったこのペンダントだけが形見だった。
ー…パチッ
ペンダントを閉じ、テーブルの花に目をやる。机に軽くうなだれ、指先で花びらをなぞる仕草は、やはりまだ18歳の少女だ。冷ややかで大人びた性格になったのは、事件が起こってからだろう…。
「私が必ず…」
花に対して語りかけたかどうかは定かでは無いが、確かにそう呟いて、一口紅茶を飲んだ。
「はぁ…」
またため息を一つ。紅茶の甘い湿度を帯びた吐息が、窓を曇らす。そこに映り込むテーブルの花も、また寂しそうに咲いていたー……。
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