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本来銃火器店というのは、自治区により指定された銃しか取り扱いを許されていない。それ以外の銃を売る事は、銃火器販売取引法に抵触する。しかし、ビルは信頼したある顧客にのみ、非合法の銃や銃弾を販売しているのだ。その一人がシンで、もう一人がダンだった。他にも何人かいたらしいが、みんな死んでしまったらしい。
「お前が銃のメンテに来るなんてな…」
ビルはデザートイーグルを眺め、意外そうに呟いた。
「いや…別に深い意味はないんだ。クウェイに行くついでに久々にな」
「そうか」
ビルはマガジンを抜き、銃を分解し始めた。
「だいぶほったらかしにしてたろ…。ところどころガタがきてんぜ?」
シンは笑ってごまかす。
「そういや相方はどうした?」
「ダンは今頃ザザ自治区に行ってる。あっちも野暮用でな」
「確か…あいつにもデザートイーグルを売ってやったな…。まさかあいつもまだ…」
「あぁ。未だに使ってる。奴は俺よりもメンテなんかしねェからな…ボロボロなんじゃねェか?」
ビルは信じられんと苦笑いをのぞかせた。
「ふッ…さしずめお前達は『イーグルス』ってとこか…」
「……?何だよそれ…」
「昔…それこそデザートイーグルがつくられ始めた位の頃、『イーグルス』っていうバンドかいたんだよ。奇しくも、そいつ等の名曲のなかに『デスペラード』ってバラードがあったんだ」
シンは興味がないのか、たてかけられたライフルを眺めながら頷いていた。
「まあいい。そうだな…まだしばらくかかるから、適当にゆっくりしててくれ」
「あぁ」
その言葉を聞いて、シンはその辺のイスを使い、おもむろに即席ベッドを作った。
「終わったら起こしてくれ…」
そう言うと、それに寝ころんで眠りについた。
どれくらい時間が経っただろうか。首もとに冷たい感触が走り、シンは目覚めた。
「ほれ。おわったぜ」
ビルは冷たい缶コーヒーを渡した。
「あぁ…すまん」
缶コーヒーの汗で少し濡れた首元を、手で拭いながらゆっくり起きる。栓をあけ、眠気覚ましに一気に飲み干した。
「銃身もほんの少しズレてたが、もう完璧だ。ほらよ」
デザートイーグルを手渡す。シンはそれを受け取ると、軽く構えた。
「ん……。いい感じだ」
流石だ。ビルの腕はやはり一流である。こんな旧式の銃を扱える奴なんて、世界広しと言えどビルを含めわずか数人だろう。腕のいい技師に巡り会えた事は、シンにとって幸運だった。
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