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黒のセダン。後部座席に押し込められたシンの顔には、どことなく笑みがこぼれていた。
「どこに連れていく気だ?」
シンが火傷の男に問う。男は隣に座り、銃口をシンに向けた。
「行けばわかります」
火傷の男は、運転席に座ったもう一人の男に目で合図した。
ゆっくり車が動き出す。
「申し送れました。私は『ツェン・ホー』と言います。以後お見知り置きを…」
「ツェン…どこかで…」
シンは煙草に火をつけた。
「…禁煙なんですが…まあいいでしょう。どのみち最後の一服です」
「そりゃあどうも」
シンは煙を深く吐いた。車内が白くすもる。
「!!…確かAA級デスペラードの…」
「ほぅ…特S級のあなたに知って頂けているのは有り難いですね」
ツェンは意外そうに笑った。
「昔の話です。いまは『こちら側』の人間ですから…。なにぶん性に合う…ククク」
不気味な笑いが車内を包む。
デスペラードの中でもツェンは異質だった。賞金首を引き渡し換金することを殆どせず、殺す。まるで殺しそのものが目的の様に…。『キラー』と呼ばれ、賞金首共に恐れられていた。デスペラードはC・B・A・AA・S・特Sとクラス分けされている。それは公安局が定めた基準により昇格する。その中でも獲得賞金額がかなり影響するシステムだ。ツェンの場合、換金せず殺すケースが多かったため、AA級とランクされていたが、実際の額を加味するとS…もしくは特S級になっていてもおかしくなかった。もちろんシンも、ツェンの噂は耳に入っていた。
「最近名前を聞かなくなったとおもったら…引退していたのか」
「こっちは殺しても金がもらえるんでね」
窓を夜の町が流れる。しばらく沈黙が続いた。
「…ふぅ。」
シンは窓に寄りかかり、目を閉じた。
「着いたら起こしてくれ」
状況を無視したシンの発言に少々面食らったツェン。
「…あなたは自分の置かれている状況が分かっていない様だな…」
ツェンの顔が歪む。
「お前は誰かに雇われて俺を拉致したんだろ?そいつに俺を会わす為に…。なら今は殺される心配は無い。…寝てたところを起こされたんだ…眠いんだよ。起こせ」
目を閉じたままシンは答えた。立場が逆転しているようだ。
「…ククククッ…あなたは面白い人だ」
ツェンは笑うと、シンの眠りを邪魔せず、窓の外を眺めた。車は西に向かう。一時間ほどで、近代的な街並みはガラっと表情を変えた。明かりも少なく、人気の少ない通りを更に西へ…。
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