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クウェイ中心街から二時間半程車を走らせただろうか…。大きな屋敷の前で車は止まった。立派な門が開く。車は静かに門の中へ入っていった。なかなか趣味のいい玄関の前に車は止められた。ツェンは先に車を降り、起きろ…と一言。目を覚ましたシンは、大きなあくびを見せた。シンも車から降りる…が、寝ぼけていたのかよろけてツェンに倒れかかった。
「チッ…しっかり歩け!私は男と抱き合う趣味はない」
ツェンがシンを引きはがす。
「んぁ…悪ィ…」
シンはまだ眠そうだ。
「命令さえ下れば貴様など…」
ツェンはシンを睨んだ。
「ついてこい!」
颯爽とあるくツェン。馬鹿にしているようなシンの態度に腹を立てていた。シンも後に続く。
なかなか立派な洋館だ。飾られてある絵の趣味もいい。照明も凝ってある。が…ひとつ気になったのは、あちこちに『その筋』の方々が居るという点だ。
「見事に景観を壊すねェ…」
ボソッと呟くシン。
「何か言ったか?」
「いや…」
階段を登り2階へ。長い廊下をひたすら歩く。一番奥の扉の前でツェンは止まった。
「ツェンです…」
…………。
「…入れ」
中から、やや老けた声が響いた。ツェンが扉を開く。広い部屋だ。大きいテーブルが置かれ、高そうなソファもその存在感を主張していた。奥には、先ほどの声の主であろう初老の男と、それを警護するかのように立っている『その筋』の方が2人。シンはそれを確認すると、でかいソファにドンと座った。
「……貴様!」
ツェンはシンに銃を向けた。
「よい…。銃を下ろせツェン…」
初老の男は立ち上がり、シンの真向かいにある同じ型のソファに腰掛けた。
「あんたか?俺を呼びだしたのは…」
シンが問う。
「貴様がシンか…」
初老の男はシンを観察した。その目は、数々の修羅場をくぐり抜けてきた者にしか宿らぬ凄みを帯びていた。
「私の名はサウザー。『ファング』というのは聞いたことあるだろう」
「…!」
ファングとは、クウェイ自治区やディナ自治区をはじめ、様々な自治区を牛耳るマフィアだ。裏社会において、ファングに逆らうことはできない。裏社会の全ての事象は、ファングに起源し、そして帰頼しているのだ。
「この方はファングの総帥…つまりトップに君臨している方なのですよ…」
ツェンは、サウザーの後ろに立ち、シンを睨んだ。
「…で、何のようなんだ?俺は早く帰りたいんだが…。やらなきゃならない事があるんでね」
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