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サウザーは葉巻をくわえた。警護の一人が火をつける。2・3度葉巻の先端を赤く灯すと、粘度のある煙をくゆらせた。
「やらなきゃならない事…か。"サーマス=ロイ"の件か…?」
サウザーは低い声でシンに問う。
シンは、なぜ自分たちがサーマスを追っている事を知っているのかが引っかかった。
「知らんな」
とぼけて突き返す。サウザーは続けた。
「…まあよい。サーマスを追うのを止めろ」
シンを深く見据えた。
「なんなら、今すぐ1200万ガルをはらってやってもいい」
シンは鼻で笑った
「悪いが…そういう稼ぎ方には興味がないんだ」
部屋に、サウザーの殺気が立ちこめた。
「ならば死ぬだけだ…」
シンはその殺気に動じることなく、口を開く。
「サーマスは一体何を盗んだ?」
「貴様は知らなくていいことだ…」
しばらく沈黙が続いた。
「…なるほど…、俺らに先に捕まえられたら困るものをサーマスは持っている。サーマスに賞金が賭けられてしまった事自体、あんたらファングには誤算だった様だな」
ツェンの眉が歪んだ。
「あんたらもサーマスを探してるんだろ?サウザー。公安の手におちる前にサーマスを見つけ、奴が盗んだ「何か」を手に入れたい…という事か…」
シンは、ソファの背もたれまで深く腰掛け、足を組みのけぞる。
サーマスがどこから何を盗んだかまでは公表されていない。しかし、状況からファングが絡んでいることは明らかだった。が…、ファングが欲しい程の「何か」は、まず間違いなく合法の範囲のそれでは無いはず。それを、公安機関にてB.S.Dに公表する事自体に矛盾を感じた。まだ裏に何かがある…シンにはそう思えて仕方が無かった。
(こいつらから得られる情報は、これが限界だな…)
シンはそう思い、ここをどう切り抜けるかを考えていた。どうシュミレートしても、すんなりと帰してくれそうにないのは明らかだ。
「さて…そろそろ帰りたいんだが…」
とりあえず言ってみる。サウザーは鼻で笑う。
「度胸だけはある様だな小僧…。だが勇気と無謀は紙一重だ」
ツェンは苛立ちを隠せず…
「このまま帰れると思っているのか!」
と、銃口を再びシンに向ける。サウザーは、今度はそれを抑止しなかった。
「その態度が、ずっと鼻についていたんですよ…。状況を無視し、人を馬鹿にした態度がな!」
部屋中のサウザーの殺気に、ツェンの殺気が混ざる。あと数グラム引金に力を加えたら、銃弾は放たれるだろう。
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