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ジャズに合わせて、ゆっくりと踊るように煙草の煙が上方へ昇ってゆく。カウンター越しに見える棚には、様々なウィスキーやリキュールが整然と並べられていた。照明がやや暗いせいか、木目調の壁に少し冷たさを感じる。 「だれかお待ちで?」 愛想のいいマスターがスコッチを渡し際に、カウンターの端の男に問いかけた。 「ん…あぁ。まぁ、そんなとこだ」 そう言いながら、スコッチを少し口に含む。 「旨いな…」 鼻から抜けるオークの香りが、スコッチのとげとげしさに丸みを与え、スッ…と喉を通り過ぎていった。角張ったグラスに落とされた、かち割り氷。その多面体には、店の照明やアンティークがぼんやり映し出されていた。…カラン…と良い音を鳴らし、ジャズの演奏と共に溶け込む。『店の雰囲気を呑む』とは、こういう事をいうのだろう。またグラスを口に運んだ。 「遅いな…。ダンの野郎…本当にこの店に奴は…」 ガチャー… 「いらっしゃいませ」 ボソッと独り言を言う刹那、店の扉が開いた。入ってきたのは、30代半ばの細身の男。バッグを抱え、ボックス席へ。 「来やがった…」 カウンターに座っていた男の口元に笑みがこぼれる。長い髪を後ろに束ね、ついていた煙草の火を消した。 「さて…と!」 席を立ち、ゆっくりと先ほどの客に近づく。その男が気づくや否や、ドカッと隣のソファに腰掛けた。 「ひッ…だ…誰だあんた…」 細身の男は怯え、バッグを抱える手には緊張のせいか力が入っていた。 「俺はシン。それより、そのバッグの中身なんだが…」 細身の男は、その言葉を聞いたとたんに、隠し持っていた銃を向けようとした…が、それよりも早くシンの銃が細身の男の眉間に当てられていた。 「残念♪」 「チッ…警察か…」 シンは軽く微笑んだ。 「ケビン=カートだな?おたくに掛かってる150万ガル、戴くぜ」 「し…賞金稼ぎ!?…クソったれ!」 細身の男ケビンは諦めたのか、全身の筋肉を弛緩させた。 「さて…ついでに…」 シンはケビンの銃を奪うと、それを避難しようとしていたマスターに向けた。 「動くな。麻薬売人ローパー」 マスターは一瞬大きくビクつき、両手を挙げシンを睨んだ。 「ローパー…あんたに掛かってる120万ガルも貰っといてやるよ」 シンはそう言うと、ケビンにバッグを開けさせた。
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