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教室の窓から見える景色はいつも同じなのだが、レイにとっては授業の逃避材料として充分だった。ただ何を考えるわけでもなく、ボー…っとスモッグがかった空を見つめていた。
「くだらないわね…」
ボソッと呟き、冷めた顔で窓から見える街を見下ろした。
「ー…い、…おい!聞いているのか?」
歴史の教諭がレイを睨んでいた。レイも自分が呼ばれていた事に気づき、冷めた顔のまま教諭を見据えた。
「…何か?」
レイの追い打ちの様な一言。
「…何か…だと!?授業をちゃんと聞いているのかと言っているんだ!!」
レイはため息を一つついた。
「2099年、当時ロシアといわれた国とアメリカという国が、非核使用条約のもと戦争を開始…ロシアが先にその条約を破り大規模な核戦争へ…。地形が変わるほどの戦争の後、生き残った反戦主義の指導者のもと今の自治区体制の基盤ができたのが2115年。それから滅亡したと言われた文明が再興の兆しを見せ、徐々に発展し今に至る…。他に何か…?」
教室を、おぉ…と感嘆の声が包んだ。
「ぐ……聞いているようだな…。もういい…」
教諭は体の悪い状況を咳で払い、何もなかったかのように続けた。
終了のベルが鳴ったのは、それから五分も経たない頃だった。
「今日はここまで。次は、核戦争が起きた原因を、200年後の今の時代と照らし合わせながら紐解いていこうと思う。各自復習をしっかりやっておくように!」
教諭はお決まりの台詞を残し、いつものように教室を去っていった。途端ー…、教室を歓談と談笑が包む。昼休みだ。
「レイ、やったじゃない!さすがの先生もIQ200超えの天才少女にはかなわないわね!」
18歳にしては大人びた容姿のサラが、嬉しそうにレイの肩を叩いて語りかけてきた。
「私あの先生大ッ嫌いなのよね!レイのおかげでスカッとしちゃった」
大人びたサラよりも、さらに大人びた容姿のレイに語りかけてくるのは彼女だけだった。レイも悪い気はしない。
「そんなんじゃないわよ。ただいきなり怒鳴られて私も頭にきただけで…」
レイも笑顔で答える。
「さてと!」
レイは鞄をとり、席を立った。前を通る時のレイのいい香りに一瞬ボー…っとなっていたサラも、すぐ我に返り
「え…ちょ…どこ行くのよ!」
慌ててレイを止めた。
「帰るわ」
レイは軽く微笑んだ。
「帰るって…午後の授業は…?」
サラの問いに、レイはしばらく考えたフリをして、それをまた微笑みで返した。
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