恋は盲目、欠点も可愛いと思ってしまうものである

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 中学三年の冬。高校受験当日。  『彼女』と出会ったのは、寒空の下、一人寂しく試験会場に向かっていた時のことだった。  俺と同じくこれから受験なのだろう制服を着た集団で占領されていた息苦しい電車から降り、駅を出て歩くこと数分。  頭の中で苦手科目の復習作業に没頭していた俺は、建物の陰から出てきた人影に気づくことができなかった。  人が現れた、と認識した時にはすでに遅く、何の反応もできないまま俺はその人とぶつかってしまった。  勢い自体は大したこともなく、俺は少しよろけるだけで済んだのだが、タイミングが悪かったのか。 「あ……あっ……」    相手はバランスを崩してしまい、尻餅の格好で腰を落としそうになっていた──のを、寸でのところで腕を掴んで自分の方へ引っ張り寄せる。  だが残念なことに、ぶつかった拍子に相手の手から滑り落ちたスクールバッグまでは救助できなかった。  ぶつかった相手は女子だった。  着ている制服から見て、俺とは違う学校の生徒みたいだが、この時間にこんなところをうろついているということは、おそらく彼女も試験会場に向かう途中なのだろう。  しかしそうだとするなら、不自然な点が一つ。  彼女が現れたのは、試験会場とちょうど真逆の方角なのである。  まあ、単純に考えるなら、俺とは受験する学校が違うとかそんなことなのだろうな。  とりあえず、落ちたまま放置されている鞄を拾っておく。 「す、すみません。ボーッとしてて……」  追突時に強く打ったのか、鼻頭を擦りながら頭を下げる少女に、俺は拾った鞄を渡してやる。 「いや、こっちも考え事をしてて周りが見えてなかったから。大丈夫、怪我はない?」 「鼻を少し打っちゃったけど……うん、大丈夫です──鞄、ありがとうございます」  見知らぬ少女はもう一度、礼儀正しく頭を下げた。肩まであるよく手入れのされた髪が動きに合わせて揺れる。  衝突したことに意識を取られていて気づかなかったが、この娘、結構可愛い顔してるな。
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