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生憎と俺は自他共に認めるひねくれた性格の持ち主なのだ。
と。
ふと頭に“ある可能性”が浮かんだ。
……まさか。いや、まさかな。
一応、確かめてみるか?
「いくつか質問いいかな?」
「うんうん。何かな?」
にこにこと笑顔で頷いてくれる。
よほど嬉しかったのか、それとも親近感でも湧いたのか──おそらくその両方だろう──彼女は敬語をやめて話し出した。
俺としても、同学年の人間に敬語を使われるというのはくすぐったい気分だったのでちょうどよかった。
「もしかしてなんだけど、この辺の中学に通ってたりする?」
「ううん、違うよ。わたしが通ってるのは、ここから三駅離れたところにある中学校」
つまり自宅もそっち方面にあるわけだ。
これはいよいよ以て俺の予想が当たっている説が真実味を帯びてきたぞ。
「でも、どうしてそう思ったの?」
「ああ、いや、何となくね。ってことは電車でここまで来たんだ?」
「うん」
「降りた駅は……あっちで合ってる?」
俺は自分が降りた駅を指す。
訊いておいて何だが、この近くに駅は一つしかなかったりする。
「そうそう、あの駅。って、この辺りにはあの駅しかないんだから答えは最初から決まってるよ?」
「そう、だね、はは……」
笑う彼女に、苦笑で返す。
おかしいな。
駅から出てきたのに、どうすれば試験会場とは真逆の道から現れることができるんだ?
駅から会場までの道がわからないにしても、とりあえず真っ直ぐ進んでおけば遠回りにはなるものの、ちゃんと着けるはずだ。
というか、出来れば触れないでおこうかとも思ったが、駅から会場までの行き方が書かれた地図を事前に渡されているはずであってだな……。
「あの、さ。まさかとは思うけど」
恐る恐る俺は訊いてみる。
「迷子?」
「…………」
その瞬間、少女は笑顔のまま硬直した。気がした。
「迷子だなんて、そんなわけあるはずないよ」
心底おかしそうに言う。
「いやでもだな……」
「たとえばの話だけど」
何か唐突にたとえ話が始まった。
「道を歩いていて、周りの景色に気を取られることってあったりしない?」
「……まあ、あるかな」
「それで、ふと我に返った時、自分がどの方向から来たのかわからなくなってる、なんてこともあったり──」
「しないな」
「え……?」
おい何だその信じられないモノを見る目は。
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