恋は盲目、欠点も可愛いと思ってしまうものである

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「何だ、やっぱりただの迷子か」  もう疲れたので紳士(を演じるの)はやめる。  人間裏表ないのが一番だな。俺が言うのも何だけど。 「違うよ。少しおっちょこちょいなだけだよ」  芸術的なまでの方向音痴をおっちょこちょいの一言で片づけないで欲しい。 「あのさ……事前に地図を貰ってるはずだよな?」 「地図?」 「地図というのは三次元世界を縮小化し二次元世界で表現した物だ。ちなみに今回俺が言っているのは、試験会場までのあらゆるルートを懇切丁寧に教えてくれる便利なヤツのことだ」  しかも解説までついているという徹底した親切設計。  どんな方向音痴でも確実に目的地へと辿り着けるような代物だ。  そこから考えると、最早ある種の芸術性すら感じられるこの迷子は、何らかの手違いで地図を貰ってないか、もしくは忘れてしまった等の理由で今は所持してない、というのが妥当な線だろう。 「あ、うん。貰ったよ。ほら」  あっさりと所持を肯定された。 「……どんな方向感覚の持ち主であれば、地図を所持していて迷子になれるのでしょうか?」  思わず敬語で訊ねてしまった。 「だからわたしは迷子じゃなくて──」 「そうだな、迷子じゃなくて芸術家の間違いだった」 「……気のせいかな。何だかそこはかとなく馬鹿にされているような……?」 「気のせいだろう。馬鹿にするどころかむしろ感動すら覚えているぐらいだぞ、俺は」 「……今の会話のどこに感動する要素があったのかわかんないよ」  そうだな。俺自身わかってないから安心していいと思うぞ。  しかしよく俺との会話を打ち切ろうとしないな、この子。俺が彼女の立場ならイラッとしてさっさと立ち去るところだが。  ──もしかして、この少女は馬鹿なのだろうか?  だって何だよこの生産性皆無な会話。  いや、まあ、うん。別にさ、俺も、すべての物事に利益とか求めるタイプの人間ではないつもりだよ。  それでもやっぱり線引きってのは必要じゃん?  時間だって無限にあるわけじゃなし。  どっちかって言えば、誰だって何事も無駄のない効効率的な人生を送りたいと思うものだろう。俺が言いたいのは要するにそういうことだ。  たぶん。きっと。おそらく。 「それで。ええと……」 「久音だよ。浅月久音」  浅月久音(あさつきくおん)──それがこの少女の名前らしい。
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