恋は盲目、欠点も可愛いと思ってしまうものである

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 ふむ。ここはやはり。  いい名前だ、とでも褒めておくべきか、社交辞令的に。  それはさておき、浅月の眼鏡のデザイン好みなんだが。  どこで買ったのか教えてもらおうかな。俺の視力から言って眼鏡かける必要ないんだけど。ほら、何つーか、オシャレしたい年頃だし。  うん、まあ、単に眼鏡かけてみたいだけなんだけどさ。実は装着したことないんだよ、眼鏡。  やっぱり人生で一度くらいは体感しておきたいと思うわけだよ、眼鏡装着時の気分やら何やらを。 「浅月久音さん、ね。いい眼鏡だ」  やべえ、眼鏡ばかりを意識してたから素で間違った。  何で名前の話してるのに眼鏡褒めてんだ、俺は。 「え、あ、うん……ありがとう?」  ああ、やっぱり眼鏡……じゃない、浅月も困惑してる。  まあ、いいか別に。変人だと思われようが構わん。  俺は純粋に眼鏡をかけたいという欲求を抱いただけに過ぎないのだから。  それに目の前に居るのは素晴らしく芸術的な方向感覚の持ち主、むしろ変人同士気が合うかも知れない。  俺は眼鏡かけたいだけだけど。 「あー……俺は夜空昴。よろしく」 「夜空昴さん、ですね。え、えと、よろしくお願いします」  微妙な空気の中、自己紹介を済ませた。 「それで。浅月さんは、ここから試験会場までどう行けばいいかわかる?」 「…………」  浅月、沈黙。  そしておそるおそる、ある方向を指差し、 「あ、あっち……かなー、なんて」 「ああ、うん。辿り着けるといいな」  ……せめて、明日辺りには。  見事なまでに真逆の方角を指していた。筋金入りだな、こりゃ。 「……ごめんなさい。わたし方向音痴で」 「うん。まあ見ればわかる」 「ですよねー…………」   「そんなに落ち込むなって。たかが、今までよく無事に日常生活を送ることが出来たな、と感心してしまう程度の方向音痴ってだけじゃないか」 「わたしもそう思う……ふ、ふふ……」  やべえ。トドメを刺してしまった。  ここは笑いを交えつつフォローをだな。 「ま、まあ、あれだ。そういう個性的なところも可愛らしくていいんじゃないか? 何ていうんだ、こう、守ってやりたくなる的な? うん、そう、そんな感じで。きっと男子には概ね好評だ」 「…………女子には?」 「カワイコ振ってんじゃねえ、と軽く陰湿なイジメの対象になる程度には不評かもな」
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